酒と数学と(検閲により削除されました)

ブログタイトルは人生の目標です

100円をたくさん機械に入れてお金儲けしたいって話(後編)

皆様お久しぶりです。ぼくではないひとです。

 

友人がはてなブログを更新していたのに感化されてブログを書いてみようと一念発起したところ、更新はほぼ1年ぶりだわ自分がなんと名乗っていたか覚えてないわでめちゃくちゃでした。慣れないことはしないほうが良いですね。

 

えーと、どこまで話したんでしたっけ・・・

そうでした。黒服の人間が変な機械を持ってきて、ぼくがそれを破壊したところまでですね。「100円入れると200円帰ってくる」という謳い文句のくせに\omega_1回硬貨を入れようとすると途中で文字通り無一文になってしまう、今回はこの現象について考察していきたいと思います。

 

 

順序数\omega_1について、C\subseteq \omega_1が非有界閉集合(これは、「closed unbunded set」を省略して「club」と呼ばれます)というのは、次の二つが成立することをいいます。

 

(1) C\omega_1上非有界。すなわち任意の\alpha\in\omega_1についてある\beta\in Cが存在して\alpha< \betaが成り立つ。

(2) 任意のS\subseteq Cについて、\sup S \in Cが成り立つ。特に、Sに最大元が存在しない場合について考えればこれは、(厳密性には若干欠けるが)「 Cの中の無限上昇列は、その到達点が必ず Cに入る。」ということを意味している。

 

補足しておくと、(2)の性質は\omega_1に順序位相を入れた時、その位相の意味で閉集合であることに対応しています。

 

S\subseteq \omega_1が定常集合であるとは、任意の非有界閉集合C\subseteq \omega_1についてS\cap C\neq\emptysetが成り立つことをいいます。

 

いま、任意の\beta \in \omega_1に対して集合\lbrace\alpha\in \omega_1 \mid \beta \leq \alpha\rbraceが非有界閉集合であることは容易に確かめられるので、定常集合の定義から「\omega_1の定常集合は常に\omega_1上非有界」であることに注意しておきます。

 

さて、\omega_1は可算順序数に比べてマジクソデカ順序数なので、実は「\omega_1未満の列が\omega_1に収束する(すなわち、その列が\omega_1上非有界になる)ためには、その長さは\omega_1でなければならない」ということが知られています*1。したがって、先ほどの注意と合わせれば、「\omega_1の定常集合の要素は\omega_1個ある」ことが帰結します。

 

最後に、この話の根幹をなすつよつよ定理、Fodorの押し下げ補題について(定理なのに補題とな?)について述べておきましょう。これは以下のような主張です:

 

\omega_1上の定常集合Sと関数f\colon S\rightarrow\omega_1に対して、任意の\alpha\in Sについてf(\alpha) \lt \alphaが成り立つとする。このとき、ある\beta\in\omega_1が存在して、f^{-1}(\lbrace\beta\rbrace)は定常集合になる。

 

これは、写像fが何らかの(集合論的に)有用な意味を持つ写像だった場合に、定常集合(とくに「非有界」)であるという性質を壊さないまま逆像の意味で対象となる集合を「絞る」、というような方法で重宝する定理です。なにいってんだこいつ感が否めませんが、このあと実際に使う場面で何となく意味がわかると思います。

 

 

 

 

 

 

 

つかれた!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

前置きが長くてつまんないったらありゃしないですね。

でも道具はそろったので後はラストスパートです。それに、こんなところまで読み進めているような奴はよほどの暇人か、ぼくの友人か、はたまた集合論に精通していて前半の話題を読み飛ばしたか、「収束じゃなくて共終だし非有界閉集合や定常集合は一般の極限順序数にも定義…」などとお粗末な部分に目を光らせているか、もしくはそのいずれにも該当しないか、まぁとにかく大丈夫です。根拠はないけど。

 

 

背理法で示します。いま100円入れると200円返ってくる件の機械(そういえばそんな話でしたね)に、\omega_1回お金を入れることができた(すなわち、\omega_1回到達時までに素寒貧にならなかった)とします。いま、今まで機械に投入した100円を「入手順に」番号付けすると、\omega_1回機械を使ったわけですから、投入した100円には\omega_1未満の順序数が対応していることになります。ここで、番号\alphaの100円について「この100円を機械から入手したのは何回目の出来事であったか」をf(\alpha)で表すことにします。機械は\omega_1回動かしたので、この関数はf \colon\omega_1\rightarrow\omega_1となり、また、「投入する100円はその投入以前のどこかで手に入れていなければならない」という当たり前の性質から、f(\alpha) \lt \alphaが任意の\alpha\in \omega_1で成立しています。

 

 ここまで読んで、勘の良い方ならFodorの押し下げ補題が使えるシチュエーション、通称「Fodorチャンス」の訪れを予感したと思います。実際、\omega_1は明らかに\omega_1の定常集合ですから、ここでFodorの押し下げ補題で集合を「絞る」ことができます。

 

さて、これによって定義域の集合を絞るとどうなるか。定理によれば、ある\beta \lt \omega_1という1点のfによる逆像が定常集合になるわけですが、このfの意味を思い出すと、これは「100円を機械から入手したのは何回目の出来事であったか」を意味する関数でした。すなわち、この逆像は投入した100円の中で、\beta回目に入手した100円のすべての番号の集合を表しているということです。ところで、この機械は何回目であろうと200円しか出してくれないので、この集合は高々2つの元しか持てません。そんなわけで\omega_1上の定常集合、とくに無限集合になるなんてことはありえない訳ですね。はい矛盾。

 

 

以上で、この機械は機関の陰謀であり、欲望に駆られたぼくを路頭に迷わせる悪魔の機械であることがわかりました。壊して正解でした。数学もたまには役に立つんだなぁというところで、参考文献の紹介です。

 

 

現代集合論の探検

現代集合論の探検

  • 作者:寺澤順
  • 発売日: 2013/05/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

以上の話は、この本の演習問題から引っ張ってきました。この本はほかにもみんな大好き(?)Goodstein数列の話だったり、Silverの定理の完全証明だったり、トピックとしておもしろい話が盛りだくさんです。しかも、かなり初学者向けに書かれており、ちょっと集合論をかじりたいならとってもおすすめです。下手したらその辺の高校生でも読める。最高の本か????????????????買いです。

 

 

 

はぁ、記事の締め方がわかりません。どうしたらいいんですかね、あの、ここまで読んでくれた方がいらっしゃったら本当にありがとうございます。長々と話してすみませんでした。えー、またぼくの気が向いたときにお会いしましょう。それでは…

*1:これは本当に嘘で、実際には非可算順序数でも長さ可算の収束列が取れるようなものはたくさんあり(\omega_{\omega}とか)、単に非可算であることが可算収束列が取れない要因ではありませんが、後続基数が正則基数である証明は意外と大変なのではてなブログの形式で書くことを諦めました。たたかないで…たたかないで…